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今週のレース:春の天皇賞

競馬
   「さあ800の標識で早くもディープは4番手! 4番手から3番手! ローゼンクロイツの外へ馬体を併せに行きました! 早くもディープインパクトが先頭だ!早くもディープインパクト先頭で、あとゴールまで600Mの標識を過ぎた! 」
   ディープインパクトが後方から進出を開始すると、京都競馬場がどよめいた。遠く離れた埼玉でもそれは同じことで、おれは自室でこの圧勝劇を口を開けながら見ていた。

   テレビは涼しい顔をして後続をぶっちぎったディープインパクト武豊、それにまったく歯が立たなかったリンカーンと横山を映しており、おれの馬券の行方を握った3着争いは蚊帳の外だったことを覚えている。

   しかし、そんなことはもはやどうでもいいぐらいの勝ちっぷりで、おれは3着馬の確認を忘れていたぐらいである。もし、歴戦の春天オールスターで走るとしたら、もちろんライスシャワーメジロマックイーンが相手でも、おれはディープに◎を打つと思う。

   そして今年も、また天皇賞(春)がやってくる。あれから9年も経った天皇賞。そのディープインパクトリンカーン種牡馬となって子供たちをターフに送り出しているが、あれから春の天皇賞は1番人気の馬がさっぱり勝てなくなった。

   京都競馬場の3200mで行われる長距離レース。圧倒的1番人気に推されたオルフェーヴルも、ゴールドシップも悲鳴とともに着外に終わり、昨年のキズナもまた同様に4着に敗退した。

   おれは春の天皇賞が好きで、たぶんおそらく有馬記念日本ダービーの次に好きなレースになると思う。同じ長距離のレースでも、万葉SやらステイヤーズSなんかはあまり好きではないのだが、菊花賞と同様にあの、G1独特の雰囲気を1秒でも長く味わいたいっていうのが主な理由になる。まあ単純にゴールデンウィーク前半にやるからテンションが高いっていうのも勿論。

   マイネルキッツが勝った2009年、ビートブラックが逃げ切った2012年。おれは現地京都競馬場で、 馬券に絡むことのなかった人気馬を本命にした馬券を握っていた。はじめて見に行った09年はまだいいとしても、4年後にオルフェーヴルが馬群に消えたときは相当堪えた。おれを含む観客の声援は悲鳴、罵声に変わり、単勝万馬券の馬が逃げ切ると静寂が淀を覆った。

   おれは金がなくなって、東京に帰る交通費を模索しながら、おそらくトウカイテイオーが馬群に沈んだとき、マックイーンが3連覇を阻まれたとき、イングランディーレが逃げ切ったとき。ファンはこんな感じだったんだな、と淀に眠るライスシャワーの墓の前で思った。そして考えついた「最終レースで逆転して新幹線で帰る」という計画がやはり簡単に瓦解するのであった。

   中距離史上主義となった現代競馬で敬遠されがちな長距離レース。天皇賞の威厳はとうに消え、信じられないような馬が勝ち、実力上位馬が信じられない敗北を重ねる。伝統だけで生き残っている、時代にそぐわない、距離を短縮しろという意見が多々見られる春の天皇賞だけど、なんだかんだやっぱりおれは3200mの天皇賞がいいと思う。若葉薫る京都外回りの最後のコーナーを回った直線のあの雰囲気。2周目にしかない世界がある。

   今年もまた天皇賞がやってくる。9年前のあの衝撃は色褪せないままだ。それどころか、あの衝撃はおれの天皇賞の馬券を狂わせ、8年間でついぞ戻ることはなかった。毎年毎年本命馬が負け、金が、馬券が、ゴールデンウィークがなくなっていった。そして今年も1番人気はディープインパクトの息子。今年こそあの衝撃を振り払わないと、おれのゴールデンウィークが終わる。

天皇賞(春):◎サウンズオブアース