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今週のレース:日本ダービー

競馬
 
 大雨の中の復活劇におれは泣いていたかもしれない。ロジユニヴァース皐月賞14着からの鮮やかな復活劇。
 
 ダービーは本当に特別なレースだ。だれもがダービーを目標に馬を育てている。しかし、サニーブライアンが二流騎手・弱小厩舎・零細馬主・零細牧場の夢を叶えたのを最後に、関東馬はダービー馬の栄誉から遠ざかっていた。1998年から関西馬相手に11連敗。馬だけではない。11年の歳月が経つと、関東にダービージョッキーは一人もいなくなった。
 
 そんな折、2008年に関東からとんでもない馬が現れた。ロジユニヴァースである。父はダービー馬のネオユニヴァース。鞍上には関東の天才、横山典弘。札幌で重賞を圧勝すると、暮れには仁川で武豊を擁した関西のエース、リーチザクラウンを子供扱いした。
 
 ロジユニヴァースの登場で関東馬ファンは盛り上がった。ようやくダービーが勝てる。有馬記念フェブラリーS高松宮記念とどんなに関西馬に負け続けても、それでもロジユニがなんとかしてくれる、と半ば縋るようにロジユニヴァースの名前を呟き続けた。
 
    その願いは皐月賞前哨戦で確信に変わる。圧勝の弥生賞。2歳王者セイウンワンダーを全く寄せ付けなかった。もう同年代に敵はいない。まず1冠目、皐月賞は通過点に過ぎない。関東だけでなく、全国の競馬ファンの考えが皐月賞単勝1.7倍に現れていた。
 
抜けた! アンライバルド抜けた!  アンライバルド!  シェーンヴァルトアンライバルドシェーンヴァルト!  外からトライアンフマーチも来ている!  抜けた抜けた抜けた~!!
アンライバルドが完全に突き抜けた! 2番手はトライアンフマーチ……
 
 皐月賞の直線でロジユニヴァースの名前が呼ばれることはなかった。全く見せ場のない14着。終わってみれば関西馬の掲示板独占だった。
 
 枠や展開、馬体重-10㎏といった要素があるとはいえど、ロジユニに縋り続けたおれはこの大敗が信じられなかった。信じたくなかった。ああ、また負けるのか。今年も関東にダービーは来ない。また。
 
 「ダービーはアンライバルドで決まり」「ロジユニも結局は関東の大物(笑)だった」「まだリーチザクラウンのほうが買える」……ダービーへ向けて、競馬ファンの中でロジユニヴァースの評価は急落、皐月賞を圧勝したアンライバルドが間違いなくダービーを勝つだろうという論調がおおよそを占めていた。
 
 加えてダービーへ向けて調整を続けるロジユニヴァースが順調でないことは、調教師や騎手のコメントからもはっきりと読み取れた。ロジユニヴァースが順調さを欠くなか、NHKマイルカップを制したジョーカプチーノがダービー参戦を表明、翌週には名牝レーヴドスカーの息子アプレザンレーヴ青葉賞を制すなど次々とダービーへ向けて新星が現れていた。
 
 迎えた2009年5月31日は雨だった。皐月賞を制したアンライバルド単勝2.1倍で堂々の一番人気、そこから大きく離れた7.7倍の二番人気でロジユニヴァースは元気なくパドックを周回していた。馬体重は+16㎏。10㎏も減っていた皐月賞から戻してきたのか。調整失敗か。不安を表すかのように雨は勢いを増す。
 
 大雨でコンディションは最悪。40年ぶりの不良馬場となったダービーの発走が近づくなか、おれは本命をナカヤマフェスタに打った。この馬場をこなせそうで、かつ関東馬だったからだ。そして大いに迷った末、ロジユニヴァースへの最後の願いの単勝は締切ギリギリで受け付けられ、レースがスタートした。
 
 長い長い2分半だったと思う。暴走気味に先頭を走ったジョーカプチーノが最後の直線を向く前に力尽くと、交わすように先頭に立ったのが、皐月賞の大敗で関西のエースの座を奪われたリーチザクラウン武豊だった。自身の汚名を晴らすように内ラチ沿いに進路を取る。
 
 その刹那、まさに武豊が最内へ潜り込もうとした瞬間。そのスペースを突いたのが1枠1番、ロジユニヴァース横山典弘だった。ロジユニヴァースがいる限り、リーチザクラウンは内へ切れ込めない。ロジユニヴァースのための道を開けるしかなかったリーチザクラウン。勝負付けは前年末で済んでいる。
 
 関東馬の12年ぶりのダービー制覇から6年。あれからも西高東低の図は変わらず、ロジユニヴァースを最後に関東馬のダービー制覇はない。ロジユニヴァースもダービー後にろくに走れなくなり、2着に敗れたリーチザクラウンも、皐月賞アンライバルドもまた、パッとしない成績で競走馬生活を終えた。結局牝馬ブエナビスタが主役の世代だったというのが大方の見方であり、「あれは死闘だった」というおれの主張もむなしく、あの泥んこダービーを評価する人間は少ない。絶対にあれで燃え尽きたんだ。それほど壮絶だった。
 
 おれは昔ほど関東関西に拘ることがなくなったとはいえ、ダービーくらいは関東馬が勝ってほしいのは事実であり、ダービーで関東馬が敗北の歴史を重ねるたびにロジユニヴァースを思い出し、後悔する。
 
 単勝馬券を買ったとはいえ、おれはあの時ロジユニヴァースを見限ってしまっていた。無理だと思ったのだった。半年以上縋り続けたロジユニヴァースを、たった一度の敗戦で信じてあげられなかったのだった。ダービーが来るたびにおれはこれからも悔やみつづけるだろう。

だからこそ、今年は心から信じてあげたい。
 
日本ダービー:◎サトノクラウン