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JRAは新潟記念を8月最終に戻せよ

どっか行った
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   ようやく今年も梅雨が明け、夏がやってきた。毎年夏になるとおれは新潟競馬場へ遠征に行くことにしていて、今年で6年目になるのだが、その中で特に印象に残っていることがある。たぶんこれからあの年を越える体験をすることはないと思うし、あれは10万馬券を当てた年を軽く凌駕する体験だった、ような気がする。

    今から6年前の2009年8月23日。おれがはじめて新潟競馬場へ行った日だ。その日はレパードステークスという新設レースが施行される日で、勝った馬はのちに日本のG1を勝つどころか、ドバイのワールドカップで2着へ健闘する名馬へと成長するのだが、正直レースの内容は覚えちゃいない。おれを含めてたぶんあの日、新潟競馬場にいた多くの人間はそうだったのだと思う。それだけあの日の新潟競馬場は異常な雰囲気だった。

    この日の前日、はじめて新潟駅に降りたおれは駅前で号外が配られているのを見た。新潟日報の号外は甲子園で新潟県代表の日本文理高校がベスト4入りしたのを報じていて、おれは高校野球弱小県だった新潟の躍進を県民同士祝福しあっている光景を微笑ましく、どこか羨ましく思ったのだった。

   翌23日。おれが新潟競馬場に行った日は甲子園準決勝の日で、新潟の日本文理高校岐阜県代表の県立岐阜商業と戦うことになっていた。おれもそうだけども、クソ暑い真夏に競馬場に来る物好きな人間なんてのは高校野球なんか二の次三の次だろうし、だいたい甲子園が見たければ家で見るだろうと思っていた。おれ自身も縁のない県同士の対戦だったこともあり、特に気にすることはなく目の前の競馬新聞を眺めていた。

   しかし日中、競馬と関係ない場面で拍手やら歓声やらため息やらがはっきりと聞こえてきた。見渡すと、スタンドのいろいろなところで何かを覗き込むような小さなグループができていた。

   それがワンセグで甲子園を見ているグループであることに気がついたのは、競馬場のビジョンで甲子園の途中経過が映されたときで日本文理がリードしているのが映し出されると拍手が競馬場を包んだ。

    それを見ておれもなんだかいてもたってもいられなくなり、ワンセグで甲子園を見はじめた。すると、隣の席にいた老夫婦がいっしょに見せてくれないかと頼んできた。いいですよ、と快諾すると、調子はどうだと聞かれたのだが、それはおれの馬券の調子なのか日本文理の調子なのか分からなかった。

     試合は接戦だった。毎回のように県岐商に得点圏へランナーを進められて、息をつく暇もなかった。日本文理もランナーを出すがあと一本が出ない。手に汗握る展開が続いたから、たぶん誰も競馬なんか見ちゃいなかった。日本文理がピンチを切り抜けるたびに拍手が、歓声が、チャンスを逃すたびにため息が、競馬場のそこかしこから聞こえた。まるで競馬場が甲子園のライブビューイング会場のようだったことを覚えている。

     そして日本文理が一打同点のピンチをしのぎ切り、最後のアウトをとったとき、それは同時に新潟県勢として史上初の決勝進出を決めたことになるのだが、そのとき、競馬場を聞いたこともない大歓声と大きな拍手が包んだのだった。あれほどの拍手はおそらく、キズナのダービーとまで言ったら大げさだろうか。

    それはおれのワンセグを中心にできていた小さな輪もまた同じで、隣にいた老夫婦と、隣のグループの赤ら顔のオッサンたちと手を叩いて、握手をして、ビールを奢ってもらって、次も勝って優勝だァ〜なんてどこか懐かしい訛りではしゃいでいたオッサンたちと「そうですね! そうですね!」みたいに話したことを覚えている。というかそのことしか覚えていない。もちろんおれは実は新潟に縁もゆかりもない県外から来たんです、なんて言うのも無粋だったし、おれはそれからなにも言わずにニコニコしていたのだと思う。

   と思って、記事を書きながらレパードSの結果を確認して思い出した。

   あのときおれの本命はシルクメビウスで、メビウスは他馬の邪魔をして降着になったのだった。そんで、赤ら顔のビールくれたオッサンたちと乗っていた吉田豊にブチ切れてまくっていたのだった。

   そうだ。思い出した。田中ヒロヤスからメビウスを奪っといてなんじゃいその騎乗は金返さんかドーベルが泣いとるぞこンのデレスケゴジャッペなんて言っていたような、気が、する。

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   新潟競馬場新潟駅からバスで片道40分掛けて行くのどかな競馬場だ。新潟といえど夏は暑い。暑さでやられて、競馬でやられて、それでも帰る40分は府中のオケラ街道を歩くより厳しく、辛い。

  でもあの日だけはどこかみんな楽しそうだった。