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夏休み3/9〜4/9

どっか行った というような事実はありません
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8/10。月曜日。

おれは埼玉県に生まれ、育った。女もまた内陸県で生まれ、育った。だから、なんとなく通じるところはある。

女が「海が見たい」と言い出したのは梅雨が明けるか明けないかのころで、全品290円の貴族という名前からはほど遠い客層の居酒屋で、おれが2杯目のシャンディガフを飲み干したときだった。

どうせ女には新潟で競馬をやること、そして友人とアニメの聖地巡礼まがいな旅行をすることはバレていたし、ゴルフへ行く代わりに家族をディズニーランドに連れて行く父親のように、ある種の罪滅ぼしといった感じで要望どおり女を海の見えるところへ連れて行ったのであった。

特に書いて楽しいことはないので省略するが、おれは天気が良ければ当旅館から海に沈む夕日が見えます、という謳い文句で決めた宿をわりと楽しみにしていた。だが、考えてみるとおれも女も、著名な歌でこう歌詞があったような気がしたが、会う日のだいたいは雨だった。そして例に漏れず、今回もまた、雨が降った。

おれ自身、学生時代に伊予灘に沈む夕日を鉄道オタクには有名な灘駅から見たし、また別の機会にも、温泉旅館の屋上にある貸切風呂から、別府湾に昇る朝日を全裸で仁王立ちして見たこともある。いずれもとても美しく、何年か経ったいまでも克明に覚えているもので、おそらくは同じように強烈な記憶になるだろうから、女にはぜひ見せてやりたかった。

だが、そんな願いは届かず、本当に我々が泊まった日だけ、はかったように雨が降った。

昨日とは打って変わって青空が広がったきょう、帰りの車内で女も助手席でひたすらに残念だとずっと言っていた。「あたしらの式も雨なんだろうね」と女がつぶやいた言葉がカーラジオから聞こえてきた甲子園のサイレンと重なったのをいいことに、おれは返事をせずに黙っていた。
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