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おれは思い出は思い出のまましまっておければどんなに楽なのかと思った。

どっか行った 養豚場

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秋の運動会と銘打たれた声優ユニットミルキィホームズのライブがあった。おれは5月と同じように仙台から上京してきた友人と観客席にいた。
 
いつも通り最高にくだらない、おれはミルキィホームズ田村ゆかり以外の声優がどういうライブをやるか分からないけれど、たぶんこんな最高にくだらないことを毎回アホみたいに楽しそうにやるのはミルキィホームズだけだと思うが、最高にくだらないライブで、今まででいちばん楽しかったように思う。
 
ただ、アンコール最後の曲がいつも通り「パーティーパーティー!」ではなく、「バイバイエール!」だった瞬間、おれはサイリウムを振るのを放棄して棒立ちだった。田村ゆかりのW:Wonder Taleを仙台で聴いたときと同じように、おれは最後までただ棒立ちで演者の退場までを見届けた。
 
隣ではあいつがおれのことなどまったく気にせずサイリウムを振っていて、ステージ上では相変わらずピンク黄色緑青の4人と白黒の2人が踊っていて、会場は湧いていた。
 
 
おれは友人が少ない。大学で一生付き合っていくんだろうと確信していた旧友たちとは簡単に疎遠になった。その中で隣でサイリウムを振っている彼ひとりだけが残った。おそらく、お互い好きだったミルキィホームズ田村ゆかりがおれと彼の仲を取り持った。だから彼女らが好きだったのももちろんあるし、友達がいなかった高校のころにまったく作れなかった思い出や記憶を、社会人になってもできるだけ作りたかった。だからライブやイベントということを口実におれが行けるところは行き、彼が来られるときは東京へ呼び寄せた。
 
けれど世の中は残酷で、彼女たちも歳を取るし、おれも歳を取る。ファンだって新しいユニットやアニメのほうへだんだんと乗り換える。オワコン、と陰口を叩かれる。アフィリエイトサイトにいいように使われる。毎日アラサーの足音が大きくなってくる。
 
そして女が結婚を楯に、そんな趣味はやめろ、さもなくばと三行半を突きつける。彼は遠い空の下で縁談を突きつけられる。おれはもう抗わない。おれはそれを承諾する。その代わりに競馬を見逃してもらう。ただ、最後にあと1年という猶予期間を交渉し、なんとか赦しを得る。
 
その1年でおれは28になって、おれが氷雨降る大井競馬場で傘も差さずに見惚れ、夢にまで出てきた女が30を迎えて、おれの目の前で手を振ってくれた世界一のお姫様が40を迎える。2016年で、いろいろなことが終わる。きっと。たぶん。そしてもう会うことはない。演者と、そして彼と。
 
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去年、彼のホームである仙台にミルキィホームズが来たのでわざわざ仕事終わりに東京から見に行ったことがある。そのときに「いつだってサポーター!」をミルキィホームズが歌うと、今まで大人しかった前のオタクがありえん動きで飛び始め、それを見て度肝を抜かれたおれらは終始笑っていた。
 
その夜、仙台駅で牛タンを食べながら「もし、いつサポをまたライブで聞けたらあのオタクを思い出すんだろうな」と話した。そしてそれから1年経った今回、彼女らはたぶんそのとき以来の「いつだってサポーター!」を歌った。イントロでおれはこの曲がいつサポであることに気づき、オイいつサポやぞ、と隣を見たら彼もこちらを向いて笑っていたので、肩を叩き合って、握手をした。
 
話は戻って、「バイバイエール!」には、違う道を行くけど私たちが過ごした日々は一生消えない〜みたいな歌詞がある。だから大学から社会人になって離れたおれらのこと唄ってるぜ、なんて適当なことを言って、笑っていたことを覚えている。
 
だから、仙台へ帰る彼を大宮で見送ったときや、おれが仙台から帰るときに新幹線でいつも聴いていたし、聴きながらいつかはおれがファンをやめるか、声優がやめるときが来るんだろう、と毎回考えていた。そして、それが確実に、着実に、表面化してきたなかで参加した今回のライブ。その最後で、この「バイバイエール!」が来た。
 
ずっと聴きたかった曲だ。聴けるまでファンを辞められない、とまで思っていた。おれはあのライブの最後、念願の曲を歌う演者を見て、なにを思って棒立ちだったのか。
 
おれの聴きたい曲が減っていく。社会人になってからも細々と続いていたおれの大学時代の名残が完全に消えていく。いつか考えたその「いつか」が確実に近づいてきている。
 
東北新幹線へ乗り込んだ彼を見送った帰り道、おれはバカみたいに音楽プレーヤーを取り出し、都合よく改竄した記憶とともに再生する。