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今週のレース:菊花賞

競馬
 
長距離のレースはいい。それだけ長く「当たる」という淡い期待を持っていられる。それがG1レース、秋の京都で争われる3歳クラシック最終戦の菊花賞ともなれば、G1独特の緊張感もあり尚更そう思う。
 
レースは外枠からの発走だったコスモラピュタが先手を取って、17頭の後続馬を引き連れて1周目のゴール板前を通過した。モニターの向こうで大歓声が上がる。大歓声を一身に浴びる1番人気のローズキングダムは不気味に馬群の中で構えている。
 
逃げ馬はいい。レースを引っ張るが、たいていゴールの手前で力尽きてしまう。哀愁がある。この菊花賞を逃げ切った馬といえば、1998年のセイウンスカイが最後か。きょうの京都競馬場の上空と同じ、青空。こんな実況の名文句と併せ、いいレースだった。そういやあのレースでも30年ぶりの逃げ切り、とも言っていた。それほど淀の3000mを逃げ切るというのは至難の業なのだろう。
 
それでもおれは逃げたコスモラピュタ複勝馬券を買った。2006年のアドマイヤメインも、前年2009年のリーチザクラウンも敗れたとはいえ、見事な大逃げだった。おれはそういう玉砕覚悟の大逃げが何十年に一度の逃走劇になることを期待していた。そして今年も、そのコスモラピュタはおれの期待に応えるかのように後続を10馬身以上離しての大逃げを展開していた。
 
京都は逃げ馬が残る。イングランディーレクィーンスプマンテテイエムプリキュアも。マイネルデスポットマイネルファルケも逃げ残って大波乱を演出した。逃げ馬が先頭で直線を向く。客はこのままではマズい、後ろの馬は届くのかとどよめく。おれはその中で、1頭息も絶え絶えに、後ろの足音を振り払おうと必死にゴールを目指す逃げ馬の名前を叫んでやりたかった。
さぁ先頭はコスモラピュタ! コスモラピュタ先頭だ! まだリードが5馬身ある、5馬身ある! そして二番手ビッグウィーク! ローズキングダム届くのか! あと250しかないぞ!
津村。津村っ。最後の直線を向いて熱狂の真ん中でおれは叫ぶ。息も絶え絶え後続馬を振り払おうともがくコスモラピュタと騎手の名前を叫ぶ。数秒後に菊花賞の栄冠を手にするビッグウィークに交わされても、なんとか食らい付こうとする姿は実に実に立派だった。なんとか3着まで。おれの叫びはローズキングダムを後押しする大多数の声にかき消される。そして。コスモラピュタはゴール直前、ついに力尽きる。
 
逃げ馬はいい。コスモラピュタ新潟競馬場の長距離レースを逃げ切り、おれが1番人気馬から流した馬券を破りながらこのことを思い出すのは、この菊花賞から2年近くあとのことである。
 
やはり逃げ馬はいい。
 
菊花賞:◎リアファル